1997 まっすぐなキュウリたちの午後 (C・スクエア,名古屋)

       “The Afternoon of Straight Cucumber” (C・SQUARE ,Chukyo University,Aichi)

 

以下に、作品の説明を記します。(中京大学C‐スクエアにおける展開)

 

・作品の背景

キュウリを食べながら思う。

地球の自転する速さも、公転の周期も太古から今の時代まで、それ程変わることなく保たれてきている。

一日のながさはずっと同じなのであるが、生活の密度は20世紀にはいって急激に高くなってきた。

みんな忙しいのである。忙しい生活を過ごして行くには、まっすぐなキュウリであることが必然的に要求されて来る。

べつにキュウリでなくてもよいのであるのだが、そんな生活の中では、個性を要求されることも少なくなってきた。

可能な限りさまざまな要素を一般化して行くことの上で成り立ちうる社会構造となっている。

それから、それに付随したことかもしれないが、「なぜ」という問いを持つ機会もへってきたのではないだろうか。

やはり、みんな忙しいのである。こんなことをいっているなら文明を放棄してどこかに立ち去ればよいではないか。

しかし、私は、そんなことをするつもりは更々ない。

現実としての文明を肯定しながら、その進路を見続けて行きたいと思っている。

そして、「なぜ」という問う姿勢を大切にして行きたいと思っている。

問うことなしに、今の文明は在りえなかったであろうし、問いなき文明は、いごこちの悪いものとなるように思える。

 

こうしているあいだにも、私にとっての午後(これからの未来)は、過ぎて行く。

 

・この作品について

二つの空間のうち一つの空間では、反復と集積をする装置を使い、労働することと、消費して行くことの記憶を提示する。

もう一方の空間では、前者を生活的視線からの水平なながめだとすると、この空間は垂直な位置から前者を俯瞰する視点で、

その記憶の集積と凝集を巨視的にとらえる装置である。

これは、長いオーバルコースを二台の走行体が、擬似的な先頭交替をしながら競い続ける装置からなる。

それぞれの定行体には、液晶モニターが搭載されていて、もう一つの空間の装置に搭載されているカメラから送られてくる

微視的な映像をうつし続け、背負い続けながら周回を重ねて行く。

 

 

・作品の構造

この作品は、近接する2か所のスペースを使い、全体が構成される。それぞれのインスタレーションは、ビデオカメラの映像を媒介として繋がっている。

ガラスの壁によって仕切られた長く細い空間(C‐スクエアのメインスペース)には、床面から1.4m程の高さに支持された、長楕円状のレールが設置され、

その軌道上で小型液晶ディスブレーを備えた走行システム二台が、互いに関係しあいながらスピードを変え(0.5m/sec~3m/sec程の範囲)、

擬似的な先頭交代をしながら周回をし続けて行く。

液晶ディスブレーには、もう一つのスペースの装置(下記参照)に取り付けてある二台のビデオカメラの映像が(一部にUHF帯のトランスミットを利用)、

それぞれに割り当てられる。

もう一つのスペースは、窓のない典型的な展示空間である。その空間の壁面に固定された途中までしかない鉄橋のような構造(壁から5m程の長さ)が、

床から1.5m程の高さで伸びている。その上を一台のトロッコ型のダンブが、往復しながらその鉄橋の先端で砂を真下に落す。

このトロッコは、砂を落すと壁の方にもどり待機している。

その下の床に置かれたかめ甕には、砂が満たしてあり観賞者が、ひしゃく柄杓を使ってトロッコに砂を供給することによって一連の動作をスタートさせる。

また、トロッコには前方少し下よりの構図てビデオカメラが取り付けてあり、鉄橋の構造や落ちて行く砂を映し出している。

落ちて行く砂は、その落線を中心として床面で水平に旋回しているプラットフオームに行く手を遮られ、

今度は、遠心力でブラットフオームの上を回転の外側に向けて吹き流れて行く。

プラットフォームからこぱれた砂は、床面に環状のカルデラのように滞積して行く事となる。

プラッフォームの上には、街のジオラマ(鉄道模型のH.O.スケールのもの)が作られてあり、

さらに外周部から回転の中心に向けてローアングルからジオラマの街並みをビデオカメラが捉えている。

その視点からは、静止した街並みと、飛ぶ様に過ぎ去る背景、駆けぬけて行く砂が映し出される。

この部屋のインスタレーションによって作り出された、微視的でセンチメンタルな風景は、

メインスペースでの闘争的なインスタレーションの中に映像として内包され、ディティールを形作る。

そして、その闘争に、巨視的なニュアンスをもたらす。

 

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